BONNOU THEATER

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北陸唯一のポルノ映画館「駅前シネマ」最終日に潜入した話 後編

前回の記事の後編です。まだ読んでない方は前編をどうぞ。

 

jzzzn.hatenablog.com

 

場内に入ってみると、かなり年季の入ったスクリーンと客席が目に飛び込んできた。

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駅前シネマの場内(iPhoneで撮影)

ちなみに最終日に上映していたのは以下の3本(ちなみに駅前シネマは3本立て上映)。

『ザッツロマンポルノ女神たちの微笑み』

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https://www.dmm.co.jp/digital/nikkatsu/-/detail/=/cid=141nkt00644/ より

www.dmm.co.jp

『襦袢コンパニオン密着露天風呂』

www.dmm.co.jp

『発情病棟女医たちの下半身』

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『ザッツロマンポルノ』のポスターはここには貼られてなかった。

まだ上映前だったため、客もまばらで5、6人が座っているのが見える。

いろいろ事前にリサーチしている中で、上映中に「誘われる」という話だったり、フォロワーさんから「椅子がボロボロだからよく確認して座った方がいい」というアドバイスをもらっていたため、比較的後方通路側の席で壊れてないかを確認して腰を下ろした。

なぜか後方(入口)には何人かの淑女が佇んでおられた。。。

上映がはじまると、後ろ上方にある映写室から「カタカタカタ…」とフィルムの音が聞こえてくる。

まずは『ザッツロマンポルノ女神たちの微笑み』。

これまで世に出てきた日活ロマンポルノの歴史がダイジェスト映像でスクリーンに映し出される。それをなんとも形容しがたい、おそらく「ボンクラ」という言葉がぴったり馴染むような人たちが呆然と眺めている。なんとも退廃的な光景である。

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タクシードライバー』より

フィルム上映なので、その日の機械の調子などもあるのだろう。途中で映像が遅くなったり、音声が遅れて聞こえてくることもある。まさしく「昭和」の時間が流れている。

駅前シネマは場内も非常出口の明かりが灯っており、今どきのシネコンよりも場内が明るい。

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暗くてあまりきれいに映らなかったが「非常出口」がたくさんあった。

そんな中、周囲を警戒しながら、これまでの日活作品を眺めていて、ふと左側前方を見ると何やら光っているものがある。非常灯ではない。スマホだ。スマホをスクリーンにかざして写真やらムービーやら撮っている男がいるじゃないか。な…なるほど、最終上映だし、記録に残しておきたいのだろうな。映画泥棒だよな。でもそんな野暮なことは言ってられない。みんながそれぞれの形で別れを惜しんでいるのだろう。

すると今度は右側前方から「カチッ、カチッ」という音が聞こえてくる。すると一瞬その座席がパッと明るくなり、白煙が上がった。タバコだ。映画を見ながらタバコをふかし始めた男がいるじゃないか。。。もうなんでもありじゃないか。ただ、こういう無法地帯のような空間もなんだか各々がそれぞれの楽しみ方をしていて悪い気はしない。

人も途中で自由に退出したり、入場してきたりを繰り返している…。…ん?よく見ると、退出と入場を繰り返しているのは同一人物であることがわかる。その人たちはかなりいい年のおじさんたちだ(以降:紳士)。後方から入ってきてはスクリーンの近くまでゆっくり向かっていき、また同じ道を戻ってくる。なんというかその「見られている」感が半端じゃない。何度も横の通路を通っては戻ってきたり、非常出口の方から外に出ていったりを繰り返している。ううむ。一体彼らは何をしているのだろうか。まったくその行動の意味がわからない。そしてめちゃくちゃ気が散る。それに、ロビーにたくさんいた淑女たちは一体何をしているのだろうか。場内には一人も姿がみえない。そんなことを考えているうちに一本目が終わった。

途中、ナレーションで語られた、『(日活ロマンポルノは、)セックスから人間を見つめ直す日本映画のルネッサンス』という言葉がとても印象的であった。

 

そして、休憩する暇もなく、次の映画『襦袢コンパニオン密着露天風呂』が始まった。内容はロマンポルノ独特のおバカ展開だ。借金を抱え、旅館でコンパニオンをやっている主人公の話で、おじいさんを助けるところから始まり、エロ展開あり(刺身を陰部につけて食べたり、タコの足で自ら陰部を刺激したり)、恋愛あり、友情と裏切りがあり、最後は冒頭で助けたおじいさんが大金持ちでお金が手に入るというハッピーエンドで終わる。そういう映画だった。一本目は6時から上映していたためまだあまり人もいなかったが、二本目からは、なんだか後方(入口)が騒がしくなってきたような気がする。ずっと後方では低い男性の喋り声が聞こえてくるのだ。そして、さっきまで徘徊していた紳士たちだけではなく、淑女たちも場内を徘徊しはじめた。後方で男性の喋り声がしているのに、後方からは淑女が場内を歩き回っている。意味が伝わるだろうか。何かが始まる予感しかしない。そんな状態で映画を見ながら、周囲も観察していると、とあるロングヘアーの淑女が後方から歩いて来て私の横を通り過ぎ、前方の座席に座った。少しして、先程から徘徊していたある初老の紳士がまた私の横を通り過ぎ、座っていた淑女の横で立ち止まった。初老の紳士はしゃがんで淑女なにか話しかけている。その次の瞬間、その初老の紳士が淑女の股の間に入っていった。そして、淑女の股間付近に顔を近づけているのが後ろからでも確認できる。よく見ると、紳士の頭部が淑女の股間で上下しているのが確認できる。。。

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イメージ図

なんという世界だ。北陸新幹線が開業して5年。地価も上がり続け、ホテルが立ち並び、観光客で入り乱れるようになった金沢駅から徒歩5分ほどの距離でこのようなことが行われていたとは!その後、紳士は淑女の隣の座席に移動し、今度は上半身がもたれかかるように淑女の股間へと姿を消した。

しばらくしてすべて終わったのか(意味深)、紳士は立ち上がり、場内をあとにしていった。その後、淑女も立ち上がり、場内から立ち去っていったが、去っていくときに見えた服装がブーメランパンツ以上にとんでもないハイレグだったのは見間違いだと思いたい。その人たちだけではなく、そのようなやりとり(まじりあい)をしている人がちらほらいた。ちなみにその初老の紳士はまた場内に入って別の淑女と楽しんでいた。元気すぎる。

そうして二本目の映画が終わった。終わる少し前あたりから、場内(後方)はかなり騒がしくなってきた。いよいよ最後の上映が始まるので、皆がその姿を見届けようとしているのかもしれない。もうここは冷やかしで来たような私がいるべきじゃないかなと思い、場内をあとにすることにした。入ってきた扉へ向かっていくと、たくさんの淑女たちが立ち並んでいた。扉を開け、ロビーを見ると、そこにもたくさんの淑女がいて楽しそうに談笑していた。

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ロビー付近の写真

帰り際、駅前シネマに集まっていた淑女たちはこれからどこへ行ってしまうのだろうかと考えた。女装を容認してくれる場所なんて今の社会ではほとんどというか、そんな場所はないだろう。駅前シネマで見た彼女たちの姿はとてもイキイキしていた。アクタスに書いてあった藤岡館長の言葉が頭をよぎる。

「不健全なものを一様に切り捨てる社会は伸びないよ。最初は『いかがわしい』と白い目で見られたものが、やがて文化になることもある。歌舞伎も漫画も、ロックもそうでしょう?」(北國新聞社北國新聞月刊アクタス』2020年、4月号、p.17) 

都市が発展(ハッテン)していくとき、必ず何かが(こっそり)排除される。都市の発展は「浄化」だ。そして、「浄化」の対象となるのは、汚れたものであり、この社会にそぐわないとされるものだ。駅前シネマはそんな社会の風潮にひっそりと抗い続けていたのだろう。ピンク映画をかけ、そこに淑女たちが集まる。「この時代にそぐわないものほど美しい」というような一つの美学と闘いの歴史を見たような気がした。この場所にこそ、中身が空洞化して死んだ、言葉だけの「ダイバーシティ(DIEversity)」ではなく、それぞれの違いが混在し、私達は決してわかりあえない、もしくはここでならわかりあえる、どのような形であってもお互いを大切にしていきたいという本当の「ダイバーシティ」があったのではないだろうか。

家に着き、思っていたよりはまだ健全な空間だったなあと思い、ツイッターで「駅前シネマ」で検索をしていろいろなツイートを見ていたら…

やっぱり襲われとるやんけ!!

 

駅前シネマ本当にお疲れ様でした!

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帰り際の駅前シネマとすぐ先の交差点で点滅する「とまれ」という文字