BONNOU THEATER

ツイッターやってます(@bonkurabrain)。煩悩を上映する場。連絡先:tattoome.bt@gmail.com

日常へ回帰するということ『ムーミン谷の彗星』

金沢は春から秋にかけて毎週イベントをやっているのが良い。

まあしょぼいのから雰囲気が素敵なものまでさまざまである。

この間の土日には「秋の空」というイベントが開催されており、いろいろなテントで、金沢にあるおしゃれショップたちが出店していた。その中の一角で『ムーミン谷の彗星』が上映されるという情報を聞きつけたので、これは行かなければと向かったわけだ。字幕で鑑賞しようとしていたのだが、会場に着いてみると「すみません。すべて吹き替えでの上映になりました。」と言われ、残念な気持ちではあったが、そのまま場内へ。

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中は子連れが多く、それに混ざって俺を含めたおっさんたちがポツポツと…。

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金沢もすっかり秋だ。

 

ムーミン谷の彗星』は2010年に作られたパペットアニメーション

『劇場版 ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション』オフィシャル・サイト

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割と最近の作品なんだな。オープニングではビョークの歌声とネズミだかなんだかのアニメーションが不穏かつ神秘的な雰囲気を漂わせながら戯れる様が流れる。始まってみると、驚いた。知っているムーミンの声ではないだろうから字幕にするつもりだったが、俺の知っているムーミンたちの声ではないか!!!『楽しいムーミン一家』の声優たちだったのだ。始まった瞬間これだけで俺は大満足。

 

内容は、とてもシンプル。彗星が地球に落ちてくるので、それを調べに冒険に行くという話。終末を迎えるということがテーマである。だが、さすがムーミン、一筋縄ではいかない、というか頭おかしいやつしかいないってのが最高。

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パペットアニメーションとかって色合いとか雰囲気が荒廃した不気味な感じになるんだよな。NHKのパペット系のものも幼少期は怖い感じがして苦手だった。朝、ムーミンが起きると外は灰色の世界になっていた。これについては、トーベヤンソンが原爆を意識したのではないかという話もあるらしい。原因を探るためにジャコウネズミさんのところへ話を聞きに行くと、地球に彗星がぶつかるという衝撃発言がなされる。そのあと哲学者であるジャコウネズミは本を読んだままムーミンの家に入ってきて朝っぱらから、他人の家で飯にありつく始末。それだけならまだしもウダウダと持論を語って帰宅。

その後、ムーミンとスニフはイカダをつくって冒険に出る。途中でスナフキンたちと出会っていく。スナフキンはいちいち台詞がかっこいい。ただ、このスニフとかいうネズミ、かなりの曲者で、基本不平しか言わない。「もうこりごりだ」、「山なんて一生見たくない」、「だから言ったんだ!」など一緒にいたら即絶縁レベルの発言をポンポン放り込んでくる。山を歩いているとき、スニフは運んでいるスナフキンのテントが重いと言い出し、それを聞いたスナフキンは「捨てていこう」と提案する。さすがスナフキン。物質主義からの脱却!しかし、それに対してスニフは「もったいない、いらないならくれ」と言い出す始末。お前、運べないんだろ?

ムーミンも相変わらず、夢中になると周りがまったく見えなくなる特性も健在で、「石を崖から落とすだけ」という狂気じみたゲームに没頭し、スナフキンの忠告を無視して崖から落下。最高な突っ込みどころしかない。もはや愛おしい。

終盤、お店に立ち寄るシーンでは、スニフは到着後即レモン水を注文しがぶ飲み。スナフキンはなぜかズボンを購入。ムーミンスノークのお嬢さんの登場により、下半身でしか物事を考えれなくなっており、贈り物の鏡を購入。スノークのお嬢さんはムーミンをたぶらかすためのバッヂを購入。スノークはノート…とみんなそれぞれ買い物をするが、散々店を物色した挙句、お金を持っていないことに気付く。みんなは購入を諦めれば済むが、スニフはレモン水を無銭飲食。やっちまったなスニフ。お前のそういうところだぞ。ここでスニフはレモン水の代金バイトをしながら、彗星が落下して死ぬのかあと思っていると、常識人スナフキンは謝罪と共にズボンを返す。店主のおばさんもしっかり頭が逝っており、「ズボンを返してくれた代金でみんなが買ったものの代金が賄えるわ!毎度あり!」と明らかに何か患っているであろう発言…。怖い。さすがに登場人物全員ドン引き。しかし、これはチャンスとばかりに購入した物品を持って店を出る。

家に帰ってくると、ムーミンママが「ムーミン」と書かれたケーキを作って待っていてくれた。居候のスニフはブチギレ。いやいや…と思っていると、スニフの過去を見てみると何も言えなくなる。スニフ…お前のトラウマを知らなくてごめんな…。そりゃあ卑屈にもなるよな…。

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ただ、ジャコウネズミさんはそのケーキを背もたれにして寝そべっているという狂気っぷり。

 

そして、彗星は谷に落ちず、尾がかすって過ぎ去っていった。過ぎ去っていったあとに、

ムーミンたちはこの世界がどれほど愛おしいか考えていました」

というナレーションが流れ、

「家に帰ってジャムをパンケーキに塗って食べた」

と締められる。

 

「終末がやってくる」というこの世の終わりに、私たちは何をすべきなのだろうかという問いかけである。この物語で面白いなと思うのは、4日後には彗星が落ちてくるのにこいつら全然寝るし、寄り道ばっかするんだよな。世界を愛するというのはなかなかに難しい、更にいうと、日常を愛するなんて到底できない。ムーミン一家は終末がやってくるのに何もしない。お茶を飲んでケーキを食べるだけだ。そして、終末が来なかった彼らは、お茶を飲んでパンケーキを楽しむのだ。ただ、終末がくる日常と終末がこなかった日常、両方とも特別でありながらも違った意味を持つ。日常は常に特別だ。このまま毎日働いて何の目標もなく、社会の歯車となっていくのかと思うとどうにもやりきれなくなる映画だったな。多分今の世界に終わりが来るのなら、同じような生活はしないだろう。ムーミンたちは何もしない、何者でもない。何者かにならなければいけないのが、現代社会だ。何もしない、気ままな日常は世界を愛するということなのだろう。

俺もムーミンパパのような破天荒人生を歩んで、終わりなき興奮に満ちた経験が必要か。

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ムーミンのもう1ついいところは、明らかに頭がどうにかしちゃっているキャラクターしか出てこないのにみんながそれを許しているところだ。許しているというか、お前はそれでいいじゃん!それがおまえじゃん!という意識が全員にあるということだ。俺がもしスニフと一緒に旅行でも行こうものなら、初日でボコボコにしている。それでも、みんなはちゃんと相手を理解している。そういうところもいいよね。

 

余談だが、終末がやってくるときに、イナゴが大量発生したり、海が枯れたりっていう全世界共通の鉄板物語が出てくるのもよかった。

 

このブログも面白かった。

「劇場版 ムーミン谷の彗星 パペットアニメーション (2010)」世界の終わり。ムーミン谷の攻防🌠 - gock221B

 

日常の愛おしさを再確認する物語であるとともに、突っ込みどころ満載、またムーミンに会えた!という再会が体験できただけでもかなりいい作品であった。DVD買いだなこりゃ。

 

新装版 ムーミン谷の彗星 (講談社文庫)

新装版 ムーミン谷の彗星 (講談社文庫)

 

 

※映画の写真は全てhttp://moomin-suisei.comより引用しました。